令和5年度税制改正大綱が公表されました~相続編~
12月16日に自由民主党から公表された令和5年度税制改正大綱のうち、主に相続に関するものを抜粋して記載させていただきます
資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築
日本では、個人の金融資産が2,000兆円とも言われていますが、その大半が高齢者に偏っているため、より早期の段階で若年世代へ資産移転を促し、経済を活性化させることが期待されています。
他方で、相続税・贈与税は資産の再分配機能も果たすことから、高齢世代から若年世代への資産移転時には適切な税負担がなければ、格差の固定化に繋がることが懸念されています。
贈与税は相続税の累進負担(相続財産が大きいほど税率が高くなる)の回避を防止する観点から、相続税よりも高い税率となっていて、生前にまとまった財産を贈与しにくい一方で、相続税がかかることが想定されている富裕層は長期間にわたり少しずつ生前贈与を行うことにより相続税の負担を軽減している傾向にあります。
そこで、資産の再分配の機能を図りつつ、資産の早期の世代間移転を促進するために、資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築が検討されています。
暦年課税における相続前贈与の加算期間の延長
現行、相続開始前3年以内の贈与は相続財産に持ち戻して相続税を計算することとされています。
前述の資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築という観点から、この加算期間を7年に延長することとされました。
他方で、延長された4年間の贈与については、贈与財産価額の合計額から100万円を控除した残額を相続財産に加算することとされました。
この改正は令和6年1月1日以降の贈与により取得する財産に係る相続税について適用される予定です。
相続時精算課税の使い勝手向上
相続時精算課税制度については、以下の記事もご参照ください。
相続時精算課税を選択後は、基本的に生前贈与又は相続による税負担が変わらず、資産移転の時期に中立的な仕組みとなる一方で、一旦相続時精算課税を選択すると暦年課税のような基礎控除(110万円)が認められず、使い勝手が悪いことが指摘されていました。
今回の改正で、令和6年1月1日以降の贈与により取得する財産に係る贈与税について、相続時精算課税においても暦年課税と同様に基礎控除110万円を控除できることとなりました。
なお、大綱の中では「相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとするとともに、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等をされる当該特定贈与者から贈与により取得した財産の価額は、上記の控除をした後の残額とする」と記載があります。
暦年贈与を選択していると110万円の基礎控除以下であっても相続開始前3年(前述のように7年に延長予定)以内の贈与については相続財産に持ち戻す必要があるのに対して、上記文言からは相続時精算課税では110万円の基礎控除以下の贈与については控除できると読めますが、これは贈与方法を暦年課税から相続時精算課税に切り替えていきたいという意向なのでしょうか・・・
この部分については、来年の改正条文を確認する必要があると思われます。
災害時における相続時精算課税で贈与を受けた土地・建物の取り扱い
相続時精算課税は、生前の贈与については2,500万円まで贈与税を課さず、相続時に他の相続財産とまとめて相続税の対象とする制度のことを言いますが、現状、その評価額は贈与時点とされています。
これは、贈与後に評価額が増加した場合でも贈与時点の評価額(増加前)を使用できるという点ではメリットがあるものの、逆に贈与後に評価額が減少した場合でも贈与時点の評価額(減少前)を使用しないといけないというデメリットがありました。
日本は台風や地震等による大規模な自然災害が多発しますので、これらの災害に備えて著しい不安を解消する観点から、相続時精算課税の下で贈与を受けた土地・建物について、当該贈与の日から特定贈与者の死亡に係る相続税申告書の提出期限までの間に災害による一定の被害を受けた場合には、例外的に当該相続税の課税価格への加算等の基礎となる評価額について、贈与時の価額からその災害によって被害を受けた部分に相当する額を控除して再計算することとされました。
この改正は、令和6年1月1日以降に生ずる災害により被害を受ける場合について適用することとされています。
贈与税の非課税措置
経済対策として講じられている教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、以下の措置を講じた上で適用期間を3年延長することとされましたが、次の期限到来時には利用件数や利用実態等を踏まえ、制度のあり方について改めて検討することされました。
- 信託等があった日から教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合、贈与者の死亡に係る相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるときは、受贈者が23歳未満である場合等であっても、その死亡日における非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額を、受贈者が贈与者から相続等により取得したものとみなすこととされました。
→令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る相続税について適用されます。 - 受贈者が30歳に達した場合等において、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額に贈与税が課されるときは、一般税率を適用することとされました。
→令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る贈与税について適用されます。
同様に、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置についても以下の措置を講じた上で適用期間を2年延長することとされましたが、次の期限到来時には利用件数や利用実態等を踏まえ、制度の廃止も含め、改めて検討することされました。
- 受贈者が50歳に達した場合等において、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額に贈与税が課されるときは、一般税率を適用することとされました。
→令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る贈与税について適用されます。
個人的には、そもそも親から教育費や子育てを含む生活費で通常必要と認められるものは贈与税がかからないとされており、また同様に結婚祝いについても社会通念上相当であれば贈与税がかからないとされているため、経済対策としてよりも節税的な利用の側面のほうが大きいように思われ、防衛力強化等をはじめ、現在の日本の財源確保の必要性を鑑みると縮小・廃止もやむを得ないように思われます。
マンションの相続税評価の見直し
現行、マンションの市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースがあります。タワーマンションのケースでは、一説には東京だと市場での売買価格を10とすると通達に基づく相続税評価額は2に留まるようにも伝え聞くところです。
今回の改正では、マンションの相続税評価額が個別に判断されて、相続税の税務調査で否認された事例も出てきているため、納税者の予見可能性を確保するために、市場価格との乖離の実態を踏まえて適正化を検討することとされました。
タワーマンションに代表される上記乖離については以前から指摘があり、平成29年度の税制改正において、タワーマンションの固定資産税等の計算の見直しがされましたが、固定資産税評価額自体の見直しは行われなかったため、今後の動向が注目されるところです。
空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例
この特例の適用対象となる相続人が相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の一定の譲渡、又は被相続人居住用家屋とその敷地等を合わせて行う一定の譲渡をした場合において、被相続人居住用家屋がその譲渡時から譲渡日の属する年の翌年2月15日までの間に以下の要件を満たす場合にはこの特例を適用できることとされています。
- 耐震基準に適合することとなった場合
- その全部の取壊し若しくは除却がされ、又はその全部が滅失をした場合
現状は、譲渡前に上記の要件を満たす必要があったため、要件が緩和されています。
また、相続等により被相続人居住用家屋及びその敷地等を取得した相続人の数が3名以上である場合は、特別控除額が2,000万円とされ、その他所要の措置を講ずることとされました。
こちらは増税措置であり、現状は例えば上記家屋及び敷地等を取得した相続人が3名であれば、3名がそれぞれ3,000万円(計9,000万円)となるところ、改正後はそれぞれ2,000万円(計6,000万円)に引き下げられることになりました。
なお、現行の特例は令和5年12月31日まで適用されるため、上記改正は令和6年1月1日以後の被相続人居住用家屋又はその敷地等の譲渡について適用される予定です。