株価評価における所得税基本通達59⁻6 (2)の「小会社」の解釈

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さつき相続

3年前に所得税基本通達59-6が改正された際のパブリックコメント、その後の改正に係る趣旨説明(情報)で今後の株価評価の参考となる考え方が示されていますので、ご紹介させていただきます

目次

評価会社の評価

例えば、社長が資産管理会社へ評価会社の株式を譲渡する場合、その譲渡時の価額は所得税基本通達59-6を参照することになります。

同通達の(2)では、「当該株式を譲渡又は贈与した個人が当該譲渡又は贈与直前に当該株式の発行会社にとって同通達188の⑵に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること」とされており、たとえ大会社であっても小会社として評価することとされています。

仮に、類似業種比準価額を@1,000円、純資産価額を@6,000円とすると、大会社であれば@1,000円となるところ、小会社として評価すると@3,500円(@1,000円×50%+@6,000円×50%)となります。

ここで、実務上問題となるのが、類似業種比準価額を計算する際のしんしゃく割合です。

このしんしゃく割合については、実務上、①しんしゃく割合も上記小会社として評価するという文言から小会社の0.5を使用するケースと②実際の会社規模の割合に応じて大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5を使い分けているケースの2つがありましたが、概ね①で評価していたという感覚がありました(なお、①の根拠の一つとして①で評価していると見受けられる裁決事例があります)。

しかし、国税庁の通達改正に伴う趣旨説明※において、以下の理由から類似業種比準価額の計算におけるしんしゃく割合は評価会社の規模に応じたしんしゃく割合を用いることが記載されています。

資産課税課情報 第22号 令和2年9月30日 国税庁資産課税課 「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」の趣旨説明(情報) から一部抜粋

本通達の⑵は「当該株式の価額につき財産評価基本通達 179 の例により算定する場合(…)において、当該株式を譲渡又は贈与した個人が当該譲渡又は贈与直前に当該株式の発行会社にとって同通達 188 の ⑵ に定める『中心的な同族株主』に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178 に定める『小会社』に該当するものとしてその例によること」としている。
このことからすると、本通達の⑵は、譲渡等をした株式の「その時における価額」を 財産評価基本通達 179 の例により算定する場合において、譲渡等をした者が「中心的な同族株主」に該当するときの評価会社の株式については、 同 通達 179 ⑶の「小会社 」の 算定 方 法 である「純資産価額方式」又は選択により「類似業種比準方式と純資産価額方式との併用方式」 を用いることを定めたものである。
本通達の⑵が上記のとおり定めた趣旨は、「中心的な同族株主」とは、議決権割合が25 %以上となる特殊関係グループに属する同族株主をいうところ、 評価会社が 「中心的な同族株主」で支配されているような場合において、同族株主にとってその会社の株式の価値は、その会社の純資産価額と切り離しては考えられないところではないかと考えられ、また、 本通達の制定に先立って行われた取引相場のない株式の譲渡 に関する 実態調査においても、 持株割合が高い株主ほど純資産価額方式による評価額により取引されている傾向があったことが確認されている。
このため、「中心的な同族株主」の有する株式については、たとえその会社が大会社又は中会社に該当する場合であっても、小会社と同様に「純資産価額方式」 を原則とし、 選択的に 「類似業種比準方式と純資産価額方式との併用方式」による算定方法によることとしている。

類似業種比準方式による評価額は、評価会社の実態に即したものになるように、評価会社の事業内容が類似する業種目の株価を基として、評価会社と類似業種の1株当たりの①配当金額、②利益金額及び③純資産価額の3要素の比準割合を乗じて評価することとしている。しかしながら、株価の構成要素としては、上記の3要素のほか、市場占有率や経営者の手腕などが考えられるが、これらを具体的に計数化してその評価会社の 株式の 評価に反映させることは困難である。また 、評価会社 の株式 は 現実に取引市場を持たない株式であることな どのほか、 大半の 評価会社はその情報力、組織力のほか技術革新、人材確保、資金調達力等の点で上場企業に比し劣勢 に あり、一般的にその規模格差が拡大 する 傾向にあるといえる社会経済状況の変化を踏まえると、評価会社の規模が小さくなるに従って、上場会社との類似性が希薄になっていくことが顕著になってくると認められる。このため、この上場会社と評価会社の格差を評価上適正に反映させるよう、大会社 の 「 0.7 」を基礎として、中会社を「 0.6 」、小会社を「 0.5 」とする しんしゃく 割合が定められている。

以上のとおり、本通達 の ⑵において「中心的な同族株主」の有する株式の価額を、評価会社が「常に『小会社』に該当するものとして」財産評価基本通達 179 の例により算定することとした趣旨(上記⑵参照)と、類似業種比準価額を求める算式における しんしゃく 割合を評価会社の規模に応じた しんしゃく 割合としている趣旨(上記⑶参照)は異なっており、本通達 の ⑵において「中心的な同族株主」の有する株式の価額を、評価会社が「常に『小会社』に該当するものとして」財産評価基本通達 179 の例によ る 算定 方法を用いる こととした趣旨からしても、本通達の⑵は、財産評価基本通達 180 の 類似業種比準価額を算出する計算において 類似業種の株価等に乗ずる しんしゃく割合まで小会社の 「 0.5 」 とするものではない。

評価会社の子会社、孫会社の評価

次に、評価会社が子会社、孫会社を保有している場合、その子会社、孫会社をどのように評価するかという論点もあり、これも実務上、①その子会社、孫会社の会社規模に応じて大会社、中会社、小会社として評価するケースと、②その評価会社がその子会社にとって「中心的な同族株主」に該当するときは、評価会社と同様に小会社に該当するものとして評価するケースの2つがありました。

例えば、①のケースはこの方法を採用していると見受けられる裁決事例があったり、②のケースは法人税基本通達の疑問点という書籍に記載があったりするほか、実際に大規模な税理士法人の間でも、それぞれ①と②のケースを採用しているのを見たことがあり、どちらが正解か分かりかねる状態でした。

しかし、これも前述の趣旨説明において、評価会社がその子会社の「中心的な同族株主」に該当するときにも 、当該子会社、 同通達 178 に定める「小会社」に該当するものとして、「純資産価額方式」又は選択により「類似業種比準方式と純資産価額方式との併用方式(Lを0.5 として計算) 」 による価額とすることが相当であると記載されています。

本通達の⑵の 「 株式を譲渡 又は贈与した個人」 が「中心的な同族株主」 に 該当する場合に、その会社を「小会社」に該当するものとしてその例によることとした 趣旨 は 、 評価会社が 「中心的な同族株主」で支配されているような場合において、同族株主にとってその会社の株式の価値は、その会社の純資産価額と切り離しては考えられないのではないかという理由等によるものである 。

このような本通達の ⑵の取扱いの趣旨に照らせば 、評価会社が有する子会社株式の価額につき、財産評価基本通達 179 の例により算定する場合 、評価会社がその子会社の 「中心的な同族株主」に該当するときにも 、当該子会社は、 同通達 178 に定める「小会社」に該当するものとして、「純資産価額方式」又は選択により「類似業種比準方式と純資産価額方式との併用方式( Lを0.5 として計算) 」 による価額とすることが相当である (この場合の類似業種比準 価額を算出する計算において、類似業種の株価等に乗ずるしんしゃく割合(評基通 180 )については、当該子会社の実際の会社規模に応じたしんしゃく割合となる。) 。

なお、評価会社の子会社が有する当該子会社の子会社(評価会社の孫会社 。以下「孫会社」という。 )の株式の価額を算定する場合にも、 評価会社の株式の譲渡等の直前において 当該評価会社の子会社が、孫会社にとって「中心的な同族株主」に該当するときには、上記と同様の理由により、当該孫会社は、「小会社」に該当するものとしてその例によることが相当である。

まとめ

今まで見解が別れていたと思われる論点について、国税庁から統一見解が出されたため、公表後の株価評価の実務に影響を与えていると思われます。

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