小規模宅地等の特例って何ですか?

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相続人

私の父の相続では土地に関する特例を使えば、相続税がゼロになる可能性があると聞いたのですが・・・

さつき相続

小規模宅地等の特例のことですね。とても複雑な制度のため、まずは概要を掴んでいただきたいので、ポイントをかいつまんでご説明しますね。

目次

小規模宅地等の特例の趣旨

相続税については、最終的に現預金で納付する必要があります。

他方で、相続財産に占める土地(不動産)の比率が高いと、手元資金が不足するため、相続した土地を処分して換金し、納税しなければならないこともあります。

しかし、土地については残された相続人がお亡くなりになられた方と住まれていたり、事業に使用されていた場合もあり、これらの土地を処分するとなると、生活の基盤がなくなってしまうおそれがあります。

そこで、生活の基盤となっているような一定の土地については政策上、大幅な評価の減額が認められているのが(結果として相続税が下がる)、小規模宅地等の特例と言われる制度になります。

その種類としては大きく、①住まれていた土地(特定居住用宅地等)、②事業に使用されていた土地(特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等)、③貸し付けられていた土地(貸付事業用宅地等)の3つに分かれます。

以下では、できるだけ簡潔に記載していますが、実際はすごく複雑な規定になっているため、もしご自身で相続税申告書を作成される際には必ず専門家にご確認いただきますよう、お願いいたします。

もし当事務所に生前対策をご依頼いただいた場合は、現状で小規模宅地等の特例の要件を満たしているか、また現状で満たしていなくてもどのような対策を取れば適用できるようになるか等をお伝えさせていただきます。

特定居住用宅地等

被相続人の居住の用に供されていた宅地等

お亡くなりになられる前に住まれていた土地で、以下の方たちが相続等で取得した場合に適用があります。

配偶者

特に要件はありません。

同居親族

以下の両方の要件を満たしていること。
①相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住していること
②その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること

家なき子

以下のすべての要件を満たしていること。
①居住制限納税義務者または非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと
②被相続人に配偶者がいないこと
③相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと
④相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族または取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます。)に居住したことがないこと
⑤相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと
⑥その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること

家なき子をすごくざっくり言うと、日本国籍で借家住まいの長男が妻に先立たれて一人暮らしだったお父さんが住んでいた土地を取得した場合で、さらにこの借家住まいは身内以外から相続開始の3年以上前より賃借していて、3年以上前であっても今住んでいる借家をかつて自分が所有していたことがある場合にはダメですよ、というイメージになります(税制改正を経て、どんどん複雑になっていっています・・・)。

被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等

ここで言う「被相続人の親族」にはもちろん配偶者も含まれますので、配偶者が取得された場合は上記の被相続人の居住の用に供されていた宅地等と同じく、特に要件はありません。

配偶者以外の親族については、以下の両方の要件を満たす必要があります。

①相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住していること
②その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

なお、生計一とは平たく言うと、生活をする財布が同じということです。相続税法にはその定義は規定されていませんが、実務では所得税法基本通達2-47などのほかの税法の通達を参照していると考えられます。

所得税法基本通達2-47(生計を一にするの意義)
法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。

(1) 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合

(2) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。

特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等

特定事業用宅地等

被相続人の事業の用に供されていた宅地等

以下の両方の要件を満たしていること。

①その宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその事業を営んでいること
②その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

また、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等は原則として特定事業用宅地等に該当しませんが、一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地等については特定事業用宅地等に該当する場合があります。

一定の規模以上の事業とは、その宅地等の上に存する建物等の一定の減価償却資産の相続開始時の価額の合計額の、新たに事業の用に供された宅地等の相続開始時の価額に占める割合が15%以上であるものを言います。これは一定程度の設備投資を行うものを対象とすることにより、駆け込み的な相続対策を排除するためと考えられます。

なお、ここでいう事業には不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業(事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの)は含まれません。不動産貸付業等については、後述の貸付事業用宅地等に該当する場合があります。

被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用に供されていた宅地等

以下の両方の要件を満たしていること。

①相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その宅地等の上で事業を営んでいること
②その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

特定同族会社事業用宅地等

一定の法人の事業の用に供されていた宅地等で、以下の両方の要件を満たしていること。

①相続税の申告期限において、その法人の役員(法人税法第2条第15号に規定する役員で清算人を除く)であること
②その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

一定の法人とは、相続開始の直前において被相続人及びその親族等が法人の発行済株式の総数等の50%超を有している場合におけるその法人(相続税の申告期限において清算中の法人を除く)を言います。

なお、上記発行済株式の総数等には議決権の全部が制限された株式や相互持合株式(会社法第308条第1項)、自己株式などは含まれません。

貸付事業用宅地等

不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業(事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの)の用に供されていたものが対象となります。
→使用貸借は相当の対価を得ていないため、対象外となります。

なお、その相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は原則として該当しませんが、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地等については該当することとされています。

ここで、特定貸付事業とは貸付事業のうち準事業以外のものを言い、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で当該貸付事業が行われていたかどうかにより判定することとされており、措置法通達69の4-24の4では以下に留意することとされています。

① 被相続人等が行う貸付事業が不動産の貸付けである場合において、当該不動産の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているときは、当該貸付事業は特定貸付事業に該当し、当該不動産の貸付けが不動産所得を生ずべき事業以外のものとして行われているときは、当該貸付事業は準事業に該当すること。
→いわゆる5棟10室等による事業的規模が求められます。事業的規模でなくても貸付事業用宅地等には該当しますが、この3年内の判定に用いる特定貸付事業には事業的規模が求められますので、ご留意ください(ややこしいですね・・・)。

② 被相続人等が行う貸付事業の対象が駐車場又は自転車駐車場であって自己の責任において他人の物を保管するものである場合において、当該貸付事業が事業所得を生ずべきものとして行われているときは、当該貸付事業は特定貸付事業に該当し、当該貸付事業が雑所得を生ずべきものとして行われているときは、当該貸付事業は準事業に該当すること。

被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等

以下の両方の要件を満たしていること。
①その宅地等に係る被相続人の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその貸付事業を行っていること
②その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業の用に供されていた宅地等

以下の両方の要件を満たしていること。
①相続開始前から相続税の申告期限まで、その宅地等に係る貸付事業を行っていること
②その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

その他

減額割合

対象宅地等減額割合対象限度面積
①特定居住用宅地等80%330㎡
②特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等80%400㎡
③貸付事業用宅地等50%200㎡

①特定居住用宅地等と②特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等は併用が可能なため、計730㎡まで適用可能となります。

他方、③貸付事業用宅地等と①特定居住用宅地等又は②特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等を併用する場合には以下の計算式が限度となります。

②×200/400+①×200/330+③ ≦ 200㎡

分割要件

小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、原則として相続税の申告期限までに相続人等によって遺産分割協議が成立している必要があります。

相続人同士で揉めてしまい、未分割で申告する場合には小規模宅地等の特例の適用が受けられず、同特例適用前の高い相続税で納付することになるため、できれば未分割申告は避けたいところです。

なお、未分割申告であったとしても、以下の場合には更正の請求を行えば、還付を受けることができる場合があります。

・申告期限から3年以内に分割された場合
・申告期限から3年以内に分割されないことについて、やむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けた場合で、分割できることとなった日として定められた日の翌日から4か月以内に分割された場合

申告要件

小規模宅地等の特例の適用を受ける場合、適用の結果、相続税がゼロになったとしても相続税の申告自体は必要となりますので、ご留意ください。

また、上記の対象宅地等を相続等により2人以上が取得した場合には、その適用結果により各人の相続税が変わるため、対象者全員の同意が必要となりますので、合わせてご留意ください。

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