不動産小口化商品が相続税対策として人気があるそうですが・・・

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ご相談者

東京で不動産小口化商品というのが人気になっているそうなのですが、どのような仕組みなのでしょうか。

さつき相続

相続税対策になると言われている考え方と課税の取り扱いについて、ご説明しますね。ただし、規定がない等により私見となる箇所もありますので、ご留意ください。

目次

不動産小口化商品とは

不動産投資を行おうとすると、数千万円~の資金が必要となります。その場所が東京の一等地であれば、数億円~の資金が必要となり、一般人には手が出ません。

そこで、不動産を例えば一口100万円程度に小口化して販売されている商品が不動産小口化商品と言われています。

不動産小口化商品の形態として主なものは、①任意組合型、②匿名組合型、③信託受益権型の3つ程度になると思われます。

任意組合型

いわゆる民法上の任意組合(民法667条)で、各当事者(投資家)が出資をして共同の事業を営むことを約することで効力を生じます。投資家が共同で事業を行うため、場合によっては事業に関する責任を負うことも考えられます。

任意組合は法人格を有しないため、不動産投資に係る土地や建物は各当事者の共有となり(民法668条)、任意組合の事業から生ずる利益金額又は損失金額については、各組合員に直接帰属することになります(法基通14-1-1)。
→パススルー課税と言われます。

所得税に係る所得区分については、任意組合が不動産を賃貸して所得を得た場合は、各組合員の不動産所得となります。なお、組合事業から生じる不動産所得の損失金額については生じなかったものとみなす(措置法41の4の2)とされていて、他の所得と相殺できませんので、留意が必要です。

任意組合契約に係る権利の評価は、財産評価基本通達に規定されておらず、匿名組合型のように国税庁の質疑応答事例もありませんが、前述のように組合財産としての土地や建物等を各当事者が共有により直接保有していることから、組合財産としての資産・負債を財産評価基本通達により評価して、その評価額に自己の出資割合を乗じて計算することになるものと考えられます。

すなわち、不動産等に係る資産・負債を直接保有しているのと同様となり、一般的に負債よりも資産のほうが小さくなるため、相続税対策になると言われているのです。

匿名組合型

匿名組合契約は、当事者の一方(投資家)が相手方(事業者)の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生じます(商法535)。事業を行うのは事業者であるため、投資家が事業に関する責任を負うことは原則としてないものと考えられます。

匿名組合については事業者が行う他の事業のリスクの影響を受けることが考えられるため、SPC(特別目的会社)を設立して倒産隔離を行うこともあります。

匿名組合では、不動産投資に係る土地や建物は事業者の所有となり、投資家はそこから得られた収益を分配してもらうことになりますが、所得税に係る所得区分については配当所得ではなく、原則として雑所得となります(所基通36・37共-21)。
→匿名組合員が組合事業に係る重要な業務執行の決定を行っているなど組合事業を営業者と共に経営していると認められるような場合には、事業所得となる場合もあります。

匿名組合契約に係る権利の評価については、前述のように国税庁の質疑応答事例が参考となり、課税時期(相続開始日)においてその匿名組合契約が終了したものとした場合に、匿名組合員が分配を受けることができる清算金の額に相当する金額により評価することになります。

清算金の額を算出するに当たっては、財産評価基本通達185(純資産価額)の定めを準用して評価することとされているため、例えば匿名組合が投資家の相続開始日(課税時期)3年以内に取得又は新築した土地、建物等についてはいわゆる相続税評価額ではなく通常の取引価額となる等により、任意組合のほうが相続税対策としての効果が見込めることになるのではないかと思われます。

信託受益権型

信託受益権小口化商品の対象となる不動産を所有している委託者が、信託銀行等の受託者との間で不動産管理処分に関する信託契約を締結し、信託の開始後に委託者が保有していた信託受益権を投資家が購入し、投資家が受益者になるような形が想定されていると思われます。
→信託の基本的な仕組みについては、以下の記事もご参照ください。

受益者等課税信託では、信託の受益者が当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなすとされていますので(所法13)、信託財産となる不動産から賃貸収入を得た場合には、受益者の不動産所得となります。

ただし、受益者等課税信託の場合も任意組合と同じく、受益者等課税信託から生じる不動産所得の損失金額については生じなかったものとみなす(措置法41の4の2)とされていますので、留意が必要です。

信託受益権の評価については、財産評価基本通達に規定があり、多数の投資家が受益者となることが想定されている不動産小口化商品では「元本と収益との受益者が元本及び収益の一部を受ける場合においては、この通達に定めるところにより評価した課税時期における信託財産の価額にその受益割合を乗じて計算した価額によって評価する(財基通202(2))」ことになり、任意組合と同じく、相続税対策の効果が見込めることになるものと考えられます。

相続税対策としての留意点

以上、3つの形態について、相続税対策の効果も合わせてご説明させていただきました。ここで、留意点です。

不動産を使った相続税対策の事例について、令和4年4月19日に最高裁判例が出ており、「相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額(鑑定評価額など)によるものとすることが上記の平等原則(租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される)に違反するものではないと解するのが相当である。」と示されています。
→カッコ書きは当事務所で補足しています。

もちろんすべての不動産の評価について路線価や固定資産税評価額等の評価方法が否定されたわけではありませんが、社会常識的に行き過ぎた節税と見られる場合には税務調査で否認されるおそれがあることには留意が必要と考えられます。

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