上場会社の資産管理会社における株式交付の利用
昨日(2022年9月5日)の日経新聞の記事で「株式交付で私的節税」という記事が出ていましたね。でも何やら問題もありそうとのことで・・・
はい。記事を補足しながら、ご説明させていただきますね。
資産管理会社の利用
資産管理会社(持株会社)は、上場、非上場を問わず、会社経営をされている方の一族の会社として一般的に利用されています。
日経新聞の記事では、株式交付を利用して、すでに設立されている資産管理会社に本体会社の株式を持たせる形となっていました。以下は簡略化したイメージ図となります。
同様に、資産管理会社に株式を持たせるケースとしては株式の売買が一般的ですが、売買だと譲渡益が生じるため、株式交付を利用したと考えられます。
持株会社のメリット、デメリットや株式交付と株式交換、株式譲渡との相違などは、以下の記事もご参照ください。
受取配当等の益金不算入
資産管理会社では事業を行う場合もありますが、大規模な事業を行うケースは少ないと思われ、一般的には本体会社からの配当金収入が大半を占めるケースも多いものと思われます。
その場合、やはり受取配当金に係る税効率が気になるところですので、以下にまとめておきます。
なお、受取配当等の益金不算入とは、会社で儲かった利益(法人税課税済み)を株主である別の会社が受取配当金として収受したときに再度法人税が課税されるのは二重課税となるため、一定の金額について法人税がかからないように配慮した制度のことを言います。
上記は受取配当等の益金不算入が改正された際の国税庁の資料より記載させていただいておりますので、詳細はご参照いただけると幸いです。
ざっくり言うと、所有割合が高いほど、配当を出す会社と受ける会社の一体度が高いため、非課税となる割合が高くされています。
3分の1超となれば、負債利子を控除した後の受取配当等の額が全額益金不算入となるため、その他の状況も加味しながら、3分の1未満となっている資産管理会社に3分の1超になるまで追加の株式購入をお勧めする場合もあります。
税務の性質
通常の株式譲渡だと、譲渡益に対して譲渡所得税がかかります。他方、株式交付で株式交付親会社の株式の交付を受ける場合は原則として課税が繰延べとなります。
→金銭等を組み合わせる場合は、交付される株式の割合が80%に満たないと課税の繰延べはなく、株式譲渡益課税が発生します。
記事の事例だと、株式交付を行っているため、原則として課税が繰延べとなります。形式面で見ると要件を満たしていて特に問題はないように思われますが、実質面で見ると持株会社のメリットを得ることなどに主眼を置いてしまうと問題がある(当初の利用目的とは異なる)ように捉えられるということで、見解が分かれているそうです。
これは最終的にどこまでが許容される範囲か、そうでないのかの判断が難しく、税務の性質であると理解しています。
ただ、記事にもありましたが、節税目的だけではないストーリー(合理性)は必要かと思われます。今回の記事で行くと、「長期安定的な株主構成を構築し持続的な成長に寄与する」、「経営の不安定化を回避し、弊社株主の皆様の利益に資するようにするという観点」などです。
例えば、個人で株式を所有していると、高齢化に伴う認知症などにより適切な意思決定ができなくなった場合に、株主総会における決議が成立しないケースも考えられるところ、法人で株式を所有していれば、取締役会で議決権を行使することによって、そのような事態を回避できることも考えられるため、一定の合理性は認められるのではないかと思われます。ただし、課税の公平の観点から問題がある場合も考えられるため、ケースバイケースになるのではないかと思われます。
2022年12月16日に令和5年度税制改正大綱が公表され、以下の措置が講じられましたので、ご注意ください。
令和5年10月1日以降に行われる株式交付について、株式等を対価とする株式の譲渡に係る所得の計算の特例の対象から株式交付後に株式交付親会社が同族会社(非同族の同族会社を除く)に該当する場合が除外されることになりました(法人税、所得税)。