株主名簿の中に名義株主や所在不明株主はいらっしゃらないですか?
先日、株主名簿を見ていたら、存じ上げない株主が数名いらっしゃったのですが、何か対応が必要でしょうか?
名義を貸されただけの名義株主や連絡が取れなくなっている所在不明株主がいらっしゃる場合は早期の対応が望まれます
名義株主について
現行の会社法の前身である商法では、株式会社を設立するのに資本金が1,000万円以上、発起人(出資者)が7名以上必要とされている時代がありました。
ご自身が会社を設立されることを想像していただくとご理解していただきやすいと思いますが、会社を設立する目的が同じで、リスクも共有できるほど信頼できる出資者(同志)を7名集めるのは難しくないでしょうか。
これは当時の発起人にとっても同様であったと考えられ、7名以上という法律上の要件を満たすために、形式的に名義を借りて会社を設立するケースがありました。この名義を借りた株主はいわゆる名義株主と言われています。
名義株主を判断する要素例
1.その株式を取得するにあたり資金を出したのは誰か
2.株主総会において議決権を行使しているのは誰か
3.会社からの配当金を受け取っているのは誰か
4.名義貸しについての合理的理由、名義貸与者との関係 など
名義株主であれば、通常は議決権を行使したり、配当金を受け取ったりされていないものと思われますが、もし名義株主でありながら、議決権を行使していたり、配当金を受け取ったりしていると、場合によっては時効取得等の問題も検討しないといけないおそれもあり、慎重な対応が必要になると思われます。
実務上は、社長(本来の株主)と名義株主がご健在で、お互いに名義株式と認識されていてトラブルがない場合は、当該株式が名義株式であるため、株主名簿の名義を真実の株主に変更する覚書等を取り交わすことが行われています。
社長(本来の株主)であれば、当時の経緯をよくご存じであると思われますが、社長のご相続発生後に会社を引き継いだ後継者にこの辺りの事情が伝わっていないと、思わぬトラブルを招く恐れがありますので、名義株式については当事者がご健在の間に整理しておくことが望まれます。
なお、税務上は名義株式について、設立当時の社長等の実際の株主が所有していたものとして相続税が課され、相続人にとっても思わぬ税負担が発生するおそれもありますので、やはり早期の解決が望まれるところです。
所在不明株主について
先ほどの名義株主は実際に出資されていませんでしたが、所在不明株主は実際に出資されているものの、ご相続が発生する等して、行方が分からなくなってしまった株主のことを言います。
所在不明株主については、その株式について議決権を行使できる株主がいないことを意味します。そのため、ごく少数であり、議決に影響が出なければ問題が生じない場合も多いかもしれませんが、例えば株主総会の定足数を満たさないなどの問題が生じる場合、定足数を緩和できる場合は緩和する等の対応に追われるかもしれません。
そのため、やはり名義株主と同様、所在不明株式についても早期に解決することが望まれます。所在不明株式については、以下の流れにより処分(売却)することが可能です。
所在不明株式の売却に係る要件
1.その株主に対する通知又は催告が5年以上継続して到達しないこと
2.その株主が継続して5年間配当を受け取っていないこと
なお、上記1.の通知又は催告が5年以上継続して到達しないことについては、実務上、株主総会の招集通知と返戻封筒を証拠とするケースが多いと思われます。
会社は、所在不明株主とその利害関係人が一定期間内(最低3か月)に異議を述べることができる旨を公告し、かつ所在不明株主等に各別に催告します。なお、催告については所在不明株主等の株主名簿上の住所、会社に連絡した通知、催告を受ける場所又は連絡先に行います。
所在不明株式の売却は、原則として競売により行うものとされていますが、実務上は競売ではなく、裁判所の許可を得て会社又は経営者が買い取るケースが多いと思われます。なお、この許可の申立てについては、取締役が2名以上いる場合は取締役全員の同意が必要とされています。
所在不明株式の競売又は売却により、その所在不明株主は株主の地位を失うことになります。その競売又は売却に係る所在不明株主への代金の支払いは供託することにより行います。