賃貸経営はスタートがピークとなるビジネスです
先日、建築会社から賃貸マンション建築の提案があり、事業計画をいただいたのですが、見るべきポイントはありますか?
はい、賃貸経営はスタートがピークとなるビジネスですので、事業計画もその前提で作成する必要があります
賃貸経営のビジネス目線
以下の事業計画を見たときに、違和感を感じられますでしょうか。
【前提条件】
- 個人で賃貸マンション(新築RC造)を1億円で全額借入(毎年元本300万円返済、金利は1.5%)により取得したとする。
- 家賃収入は新築かつ満室時の水準は取得価額の10%である1,000万円とする。
- 管理費用は1,000万円の5%=50万円とする。
- 固定資産税は特例や経年劣化等は加味せず一律60万円を所与とする。
- 減価償却費は定額法で1億円×0.022(耐用年数47年)=220万円とする。
- その他経費は一律20万円を所与とし、社会保険等の他の支出は加味しない。
- 所得税は税率20%、住民税は税率10%の計30%とする。
(単位:万円)
項目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 6年目 | 7年目 | 8年目 | 9年目 | 10年目 |
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家賃収入 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 | 1,000 |
管理費用 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 |
修繕費 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 |
固定資産税 | 60 | 60 | 60 | 60 | 60 | 60 | 60 | 60 | 60 | 60 |
支払利息 | 150 | 145 | 141 | 136 | 132 | 127 | 123 | 118 | 114 | 109 |
減価償却費 | 220 | 220 | 220 | 220 | 220 | 220 | 220 | 220 | 220 | 220 |
その他経費 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 | 20 |
所得税住民税 | 135 | 136 | 137 | 139 | 140 | 141 | 143 | 144 | 145 | 147 |
当期利益 | 315 | 319 | 322 | 325 | 328 | 332 | 334 | 338 | 341 | 344 |
今は表面利回り10%では回らない、他にも経費がある、その他経費が多い、少ない・・・などのご意見もあるかと思いますが、ここでは賃貸経営のビジネスモデルという視点から上記事業計画の違和感をご説明します。
前提より新築かつ満室時の家賃が1,000万円となっているため、たしかに最初の1年目はそれに近い水準かもしれません。
しかし、実際に賃貸経営を実践されている大家さんには釈迦に説法で恐縮ですが、新築時には日本人の新築信仰と相俟って、周辺の相場よりも若干高い新築プレミアムが乗った家賃で貸し出せることがあり、一旦新築時の入居者が退去すると周辺の相場に落ち着くのが通例となっています。
また、たしかに初めは空室がなかったとしても、今でも相続対策と称してどんどん賃貸マンション、賃貸アパートが建築されていて、少子化にもなっている現在において、はたして10年近く経った時点でもずっと満室と想定してよいでしょうか(家賃が周辺相場と比べて突出して高かったり、立地等が悪かったりしなければ、それほど空室が続かずに運営できることもあります。念のため)。
違和感の正体は、上記事業計画では今後10年ずっと新築時かつ満室時の家賃水準が続く前提となっていますが、賃貸経営では新築プレミアムが落ちた時はもちろん、築年数に応じても通常は家賃が下がる傾向にあるため、スタートがピークになるというビジネスモデルが反映されていないことにあります。
家賃収入は上記のように下がっていく傾向にある一方で、修繕費は年々増加する傾向にあります。すなわち、年数が経てば経つほど、収入は下がり、支出は増えるというダブルパンチで収支を悪化させることも想定に入れておく必要があるのです。
ちなみに上記事業計画では修繕費が一定となっていますが、本来修繕費も当初は少なく年々大きくなること、また10~15年経てば通常の修繕だけではなく、外壁塗装等の大規模修繕が必要となることも見込んでいるほうが現実的な計画となります。
賃貸経営では、その物件の収益力が最も高いのは新築時(不動産投資では購入時)であり、その後は時の経過により下がっていくことが想定されるため、新築時(購入時)である程度余裕のある資金計画ができていなければ、後でリカバリーすることは大変困難であることにご留意いただきたいと思います。
サブリースの是非
上記のように、賃貸経営では新築時(購入時)にその後の収益性が決まってしまうと言っても過言ではありませんので、資金が回るかどうかは必ず確かめる必要があります。
この点、建築会社からサブリースのご提案を受けることもあるかと思いますが、サブリースを設定してしまうと、たとえ空室であろうと毎月一定の家賃収入が振り込まれてくるため、経営者として思考停止の状態に陥ってしまうおそれがあることに注意が必要です。
思考停止になってしまうと、その土地には賃貸需要があるのか、家賃設定が周辺相場と比べて妥当なのか、今は満室なのか、入居者から問題点の指摘等はないのか等に関する経営者として把握しておかなければならない事項が把握できておらず、サブリース業者から「この家賃水準では入居者が決まらないため、家賃を下げたいのですが・・・」と来られた時に適切な対処が困難になることもあるかと思われます。
そもそも賃貸需要があり、賃料水準が周辺相場と乖離しておらず、定期的な清掃や手入れが行き届いていて、管理会社やリフォーム会社と良好な関係を築いている等の条件が当てはまっていれば、サブリースを設定する必要がない場合もあるものと思われます(私はこれが本来のあるべき形と考えています)。
他方で、これらの条件が満たされていない又は確認できていないのに、相続対策のためだけに賃貸マンション等を建築してしまうと、後々苦労することもあるかと思われます。
ご家庭の事情や物件数がとても多くて管理することが困難な場合もあるため、決してサブリースを否定するものではありませんが、賃貸経営を行われる場合はビジネスモデルを理解し、経営者意識を持っていただいた上で、サブリースの必要性についてご検討されることをお勧めします。