賃貸経営において法人化したほうがよい場合とは、どのような場合ですか?

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大家さん

賃貸経営で法人化されているケースをお見かけするのですが、私の場合は法人化したほうがよいのでしょうか?

さつき相続

法人化の概要とメリット、デメリットをご説明しますね。

目次

賃貸経営における法人化の方式3パターン

賃貸経営における法人化の方式は、概ね以下の3パターンとなります。

  1. 管理会社方式

賃貸している不動産は大家さんが所有したままで、法人は管理料を受け取る方式です。この場合、法人は管理料しか受け取らないため、一般的に所得の移転効果は低いとされています。

  1. サブリース方式

賃貸している不動産は大家さんが所有したままというのは管理会社方式と変わりませんが、法人へ一括貸付けすることになるため、その不動産から得られる家賃収入はすべて法人の収入となります。

他方、法人は大家さんへ一括借上げした家賃を支払いますので、法人の利益は入居者からいただく家賃から大家さんへ支払う家賃を差し引いた金額となります。

なお、サブリース方式はサブリース料をいくらにするかが肝となります。一般的な賃貸管理会社さんにお願いすると、概ね賃料の5%程度が相場と思われますので、これに空室保証料率を加味して5~15%程度になっているケースが多いと思いますが、実際の管理の状況等も加味して検討しないと、税務調査でサブリース料の水準が高いのではないかと指摘される可能性もあるかと思われます。

  1. 不動産所有方式

一般的に、大家さんが賃貸している建物を法人が買い取り、地代を大家さんに支払います(建物は法人所有、土地は大家さん所有)。なお、土地については一般的に含み益が多く、譲渡所得税が高額となるため、建物のみを譲渡するケースが多いです。

法人の利益は、入居者からいただく家賃から大家さんへ支払う地代を差し引いた金額となり、一般的にこれら3つの方式の中では最も所得移転効果が高いため、特にある程度の築年数を経た物件では不動産所有方式を採用されるケースが多いのではないかと考えられます。

なお、不動産所有方式では高額となる建物の買取に係る資金、地代の水準、借地権の検討等について検討が必要となります。借地権については、また後日、ご説明の機会を設けたいと思います。

会社の種類

会社法では、会社の種類として株式会社、持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)、特例有限会社がありますが、合名会社と合資会社は直接無限責任を負う社員の存在が必要で賃貸経営では一般的ではないこと、また特例有限会社は現在ではもう新設できないため、一般的に選択されることの多い株式会社と合同会社について比較してみます。

項目株式会社合同会社
出資者の責任間接有限責任間接有限責任
所有と経営分離一致
役員、社員の任期あり(非公開で最大10年)
→役員の重任登記等が必要
なし
→役員の重任登記等が不要
決算公告義務ありなし
登録免許税最低15万円最低6万円

コスト面から行くと、合同会社のほうが有利なため、最近は合同会社での設立が増えているそうです。

ただし、株式会社と合同会社における最も大きな差異は、所有と経営が一致しているか否かですので、ここが最も大きな検討ポイントになるかと思われます。

株式会社では所有と経営が分離しているため、出資者(株主)は基本的に経営に関与はしないため、例えば小学生であっても株式を所有することが可能です。

他方で、合同会社では所有と経営が一致しているため、出資者(社員)は原則として代表権を持ち、経営に関与することになるため、経営者としての責任が問われることもあることに注意が必要です。ただし、定款で業務執行権のある社員とない社員とを区別することが可能とされています。

一般的には、所有と経営の一致について理解していて、知名度について拘りがなければ、合同会社を選択し、それ以外は株式会社を選択されるケースが多いのではないかと思われます。

法人化すべきかどうかの検討

法人化の主なメリット

  •  高齢化に伴う認知症等により、大家さんが意思決定できなくなった場合でも、所有権が法人に移っているため、修繕等が可能になる(不動産所有方式の場合)。
  •  賃貸経営に関われる親族がいる場合、所得分散効果で所得税、住民税等が低くなる場合がある。
  •  法人の場合は一般的に個人よりも経費になる範囲が広い。
  •  事業承継を行う際に、法人が所有する不動産については不動産取得税、登録免許税がかからない(承継するのは不動産ではなく株式のため)。
  •  法人化後は家賃等の収入が法人に入るため、個人の相続財産増加が抑制される。

2つ目の所得分散効果は、所得税が超過累進税率(所得が増えるほど税率が高くなる)で、また役員報酬(給与)は給与所得控除という一定額を所得から控除して計算する仕組みになっていることから、1人で集中して所得を得るよりも、複数人で所得を分散したほうが節税効果が出るということを意味しています。

法人化の主なデメリット

  •  法人の設立、運営コストがかかる。
  •  法人化後、間もないタイミングで相続が発生した場合、相続税が増加する可能性がある。
  •  所得が赤字になったとしても、住民税の均等割は納付しなければならない。
  •  社会保険への加入が原則義務化される。

2つ目の相続税が増加する可能性について、補足させていただきます。
税法では、法人税や相続税など税目によって時価の概念が変わります。すなわち、一般的に法人税法上の時価、所得税法上の時価よりも相続税法上の時価のほうが低く計算されるケースが多いのです。

例えば、建物について相続税法上の時価が60、法人税法上の時価が100とします。
建物を法人に売却しないで相続が発生した場合、相続財産(建物)の評価は60となります。他方、建物を法人に売却して相続が発生した場合、相続財産(現金)の評価は100となり、売却しない場合と比べて、相続財産が40増加してしまうのです。

法人化の分岐点

法人化の分岐点については、所得が500万円程度と言われることもあれば、7~800万円程度、1,000万円程度もしくはそれ以上と言われることもあり、結局何が正解か、分からなかったという地主さん、大家さんも多いのではないでしょうか。

実は、これらの見解は一定の前提条件を置いた上での目安にしかすぎず、正解は各々の地主さん、大家さんの置かれた状況により異なるということを意味しています。

管理面の強化を置いておいて、不動産を個人で所有した場合よりも法人で所有した場合のほうがトータルで税金等が抑えられるのが法人化の分岐点という前提に立つと、やはりどれだけ所得が分散できるのか、不動産以外にどれぐらいの所得があるのか、法人で経費にできるものがどれだけあるのか等を勘案して、デメリットである法人の設立、運営コストや社会保険等を超える経済性があるのかを検討する必要があります。

私見ですが、所得(収入ではありません。経費を引いた後の利益水準です)が800万円ぐらいある方でしたら、法人化の効果が出ると思われます。ただし、お客様の状況によっては所得が5~600万円ぐらいからでも法人化の効果が出る場合もありますので、法人化した場合のメリット、デメリットを整理してシミュレーションされるのが良いのではないかと思われます。

もちろん、当事務所でもシミュレーションを行っておりますので、ご相談いただければ幸いです。

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