銀行から持株会社方式による事業承継を提案されたのですが・・・

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社長

先日、銀行から持株会社を設立して事業承継を行いませんか、と提案があったのですが、そもそもどういうものなのでしょうか?

さつき相続

持株会社方式について、概要のご説明とメリット、デメリットをまとめましたので、ご参考にしてください。

目次

事業承継とは

事業承継の定義には諸説あり、例えば、中小企業庁の事業承継ガイドラインや経営者のための事業承継マニュアルでは人(経営)、資産、知的資産の3要素からなるとされています。また、知的資産については人(経営)と資産に含まれるものとして、この経営権と財産権の2要素で説明されることもあります。

当事務所では後者の2要素を前提にしていて、事業承継は経営権(経営者の地位)と財産権(株主の地位)のいずれをも後継者に渡したときに完了するという考え方に立っています。

  1. 人(経営)・・・経営権、後継者の選定・育成、後継者との対話、後継者教育
  2. 資産・・・株式、事業用資産(設備・不動産等)、資金(運転資金、借入金等)、許認可
  3. 知的資産・・・経営理念、経営者の信用、取引先との人脈、従業員の技術・ノウハウ、顧客

(引用:中小企業庁HP 経営者のための事業承継マニュアル

また、事業承継の類型としては、以下の3つに分類されることが多いです。他に、廃業等の選択肢を入れることもありますが、ここでは事業の継続を前提にして、3つをご紹介します。

  1. 親族内承継・・・現経営者のお子様への承継など、最もオーソドックスな方法
  2. 役員・従業員承継・・・親族に適切な人材が見当たらない場合、中継ぎとなる場合も含めて親族外へ承継する方法
  3. 社外への引き継ぎ(M&A等)・・・親族や社内に適任者がいない場合等に、M&A等を活用して外部へ承継する方法

(ご参考:中小企業庁HP 事業承継ガイドライン

昔は親族内承継が主流でしたが、最近では役員・従業員承継、M&Aの選択肢も増えてきています。これは、企業には創業期、成長期、成熟期、衰退期等のライフサイクルがあり、上り坂の成長期に引き継ぐことができれば特に問題はないのですが、下り坂の衰退期に引き継ぐと後継者の力量が問われることが考えられます。また、経営者保証に関するガイドラインが制定されたとは言え、まだまだ経営者に連帯保証を求める金融機関もあるため、リスク回避志向から経営を引き継ぐことが躊躇される場合もあり、親族内という狭い中では適任者が見当たらないことがあるためと考えられます。

他方で、後継者の創意工夫により経営が持ち直したり、現在のようなコロナ禍でもアイデアを出して好業績を上げている会社もまだまだありますので、親族内承継も当然に必要な選択肢となります。以下では、この親族内承継を行う際によく用いられる持株会社方式について、ご説明します。

ちなみに、当事務所では親族内承継と役員・従業員承継を業務内容としていますので、社外への引き継ぎ(M&A等)をお考えの会社様については別途ご対応が可能なご提携先にご紹介させていただくことも可能です。

持株会社方式

持株会社方式は、前述の事業承継の2要素である経営権と財産権のうち、主に後者(株式)の承継に利用されます。

現社長から後継者へ株式を承継するためには、基本的に現社長から後継者へ株式を譲渡又は贈与(相続)するか、後継者が設立した会社へ譲渡することになると考えられますが、持株会社方式は後者の方法を指しています。

持株会社方式の主なメリット

  •  個人で借入金を背負わなくてよい(持株会社が後継者の身代わりになってくれる)

個人で株式を買い取るにせよ、贈与を受けて贈与税を支払うにせよ、業績が好調な会社ほど資金負担が重くなる傾向にあります。後継者は多額な資金負担ができないケースが多いため、一般的には必要資金を借り入れることになりますが、借入返済のために役員報酬を増額すると、多額の所得税、住民税、社会保険等を負担することになり、資金効率が悪化します。

この点、会社が借入返済する場合は本業の利益のほかに、受取配当等の益金不算入により、例えば100%子会社からの配当であれば、原則として無税になる等の仕組みがあるため、個人よりも資金効率が有利になる可能性がありますし、個人として借入金を返済する必要はありません。また、後継者自身が借入れをした場合の支払利息は通常損金とできませんが、法人であればすべてが営業活動となるため、損金とできる点もメリットになるかと思われます。

なお、持株会社は株式移転という組織再編によって設立することもありますが、ここのご説明では株式譲渡を前提にしています。

  • 本体会社の将来の含み益の37%が控除できる(将来の株価抑制ができる)

これは副次的な効果となりますが、税法上の非上場株式を算定する際に使用される純資産価額の計算においては含み益の37%を控除できるという仕組みになっています。これは株価計算の際に、将来、含み益のある資産を処分する際に課税される法人税等相当額分を予め控除してくれているのです。

このため、結果として持株会社が保有する本体会社の株価計算において含み益の37%が控除されるため、将来の株価が抑制できることになるのです。ただし、本体会社がさらに関係会社を保有する場合には、その関係会社株式の評価においては含み益の37%は控除されませんので、注意が必要です(財産評価基本通達186-3 注書きご参照)。

  • 引継ぐ会社が複数ある場合、持株会社株式のみを引継げばよいため、手間が省ける

もし、3社の会社の株式をそれぞれ社長が100%所有していた場合、後継者には3社分の株式を引継ぐ手間がかかります。他方、1社を持株会社とし、残りの2社を持株会社の100%子会社としている場合、持株会社株式のみを引継げばよいことになり、手間が省けます。

また、持株会社が大会社であれば、一般的に株価のコントロールもしやすいと考えられます(株価計算における大会社の評価方法等については、またの機会にご説明させていただきます)。

  • 譲渡の場合、贈与と比較して有利になることがある

譲渡の場合は金額に拘らず、一律20.315%の所得税率となっていますが、贈与の場合は累進税率となっているため、4,500万円超になると55%(父等の直系尊属から贈与を受ける特例税率)にもなり、倍以上の税率差となります。

また、贈与の場合は遺留分侵害額請求のおそれがありますが、譲渡の場合は時価で譲渡していれば、基本的に遺留分の問題は生じません。

持株会社方式の主なデメリット

  •  持株会社の設立費用や毎年のランニングコストがかかる

設立費用やランニングコスト等は、持株会社を設立しなければ当然発生しないコストです。ただし、持株会社が有効に機能するのであれば、必要経費とみる考え方もあります。

また、株式の取得に要する資金を借入れにより調達した場合は、原則として利息の支払いが必要となります。

  • 持株会社を設立するにあたり、事業付け、ビジネス上の理由があることが望ましい

昔から資産管理会社という考え方があり、今でも持株会社は一般的だと考えられますが、最近では税務上のメリットばかりが独り歩きしてしまい、行き過ぎた節税(≒租税回避)とみなされ、税務調査で否認される可能性もゼロではないと思われます。

と言うのも最近の実務傾向として、法的安定性及び納税者の予測可能性を確保するために抜かれにくいとされていた総則6項という伝家の宝刀が短期間で続けて抜かれる状況になっていますので、このあたりには一定の配慮が必要であると考えられるためです。

財産評価基本通達6項 「この通達の定めにより難い場合の評価」
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

  • 株式評価の問題に配慮が必要

持株会社を新規設立した場合、基本的に持株会社は本体会社の株式しか所有しないため、株式保有特定会社(持株会社の総資産に占める株式等の割合が50%以上となる会社)に該当するおそれがあります。また、新規設立の場合は開業後3年未満の会社となり、いずれの会社も原則として純資産価額による評価となることに注意が必要です。

持株会社方式は万能ではない

金融機関からよくご提案を受ける持株会社方式ですが、当事務所ではどのような会社にとっても常に有効とは限らないと考えています。すなわち、株価によっては他の承継方法も考えられることもあるため、会社の状況なども総合的に勘案して、どのように後継者に株式を引継げばよいかを考えていく必要があります。

当事務所では会社様の事業承継方針をお伺いするとともに、社長や後継者様の置かれている状況やご希望、株価評価の結果等も踏まえ、選択肢をご提示するとともにご相談に乗らせていただきます。

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