大家さんは、消費税に係るインボイスの登録申請が必要でしょうか?
消費税にインボイス制度というのが導入されるようなのですが、大家にも対応が必要でしょうか。
大家さんの収入には貸家のように消費税がかからない収入とテナントのように消費税がかかる収入がありますので、ケースバイケースとなります。
消費税の仕組み
消費税は、物の販売や貸付け、サービスの提供に対して課税される税金で、その商品の販売価格等に消費税(10%等)を上乗せして、購入者等に負担させる仕組みになっています。
また、消費税は各取引段階にいる事業者が、最終消費者の負担すべき消費税を分担して納税することになっています。
例えば、小売店AがメーカーBから仕入れた商品66(本体価格60、消費税6)を、消費者Cに110(本体価格100、消費税10)で販売したとします。
この場合、小売店Aは消費者Cから受け取った消費税10からメーカーBに支払った消費税6を差し引いた4を税務署へ支払います。他方、メーカーBは小売店Aから受け取った消費税6を税務署へ支払います。
最終的に、消費者Cの支払った消費税10は、小売店Aが4、メーカーBが6を分担して支払う形となります。
インボイス制度とは
インボイスとは、簡易に申し上げると仕入先等が消費税を納税したことを証明する書類となります。
先ほどの例で行くと、メーカーBが消費税6を納税しているため、小売店Aは消費者Cから受け取った消費税10からこの消費税6を差し引いて4のみを納税することができました。ここで仮に、メーカーBが消費税6を納税してくれていないと(インボイスを発行してくれないと)、小売店Aは消費税6を差し引けないため、10を負担することになります。
すなわち、このインボイス(適格請求書等)がないと、小売店Aは消費税を多く負担しなければならなくなるため、メーカーBにはインボイスの登録申請を行ってほしいという要望が出てくるのです。
ちなみに、令和5年10月1日からインボイスが発行できる適格請求書発行事業者になろうとする場合、インボイスの登録申請期限は原則として同年3月31日までとなっていますが、困難な事情がある場合には同年9月30日までとされています。この困難な事情については、困難の度合いを問わないこととされているため、例えば、登録をすべきか判断するのに時間を要したのような主観的な事情でも問題ないものと思われます。
大家さんにインボイスの登録申請は必要か
さて、それでは、大家さんにはインボイスの登録申請は必要でしょうか。以下の3つのケースに分けて考えてみます。
- 現在、課税事業者・・・原則としてインボイスの登録申請が必要と考えられます
- 課税売上(テナントや駐車場等からの収入)はあるものの、現在、免税事業者・・・ケースバイケース
例えば、①相手が事業者ではないため、インボイスの登録申請をしない(アパートの入居者の一部にのみ駐車場を貸し付けている等)、②経過措置中は賃借人の消費税負担分を値引きで対応する、③インボイスの登録申請を行い、簡易課税制度を採用する等の対応が考えられます。
簡易課税制度とは、実際の課税仕入額とは関係なく、事業区分により決められたみなし仕入率を売上に係る消費税額に乗じて、形式的に仕入に係る消費税額を計算できる仕組みです(基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下の課税期間が対象です)。
大家さんであれば、第6種事業(不動産業)に該当し、みなし仕入率の40%を用いて計算することになると考えられます。
具体的には例えば、テナントの賃料が11万円(本体価格10万円、消費税1万円)として、インボイスの登録申請をしないため、賃料を本体価格相当額の10万円に値下げすることになったとすると、大家さんの収入は10万円となります。
他方、簡易課税制度を適用すれば、受け取った消費税1万円のうち6千円(1万円ー1万円×40%)を納税すればよいため、収入は10万4千円となり、1万円を丸々値引きするよりも有利なケースもあると考えられます。
- 現在、免税事業者で課税売上なし・・・インボイスの登録申請は不要と考えられます
なお、消費税の課税事業者に該当する場合、たとえインボイスの登録申請を行わなかったとしても、消費税の納税義務はなくなりませんのでご注意ください。