遺産分割で住む家を確保しながら、老後の資金も確保する方法はありますか?
子どもたちと平等に遺産を分けたいのですが、今住んでいる家を相続すると、老後資金の大半が子どもたちに相続されてしまい、悩んでいます。
民法改正で新設された配偶者居住権を活用するのはいかがでしょうか。
配偶者居住権とは
相続財産に占めるご自宅(土地、建物)の割合が高くなる場合、法定相続割合により遺産を分割する前提で配偶者が住む場所としてご自宅を確保すると、老後の生活費に充てるための現預金等を相続できなくなるおそれがあります。法定相続割合については以下の記事もご参照ください。
そこで、相続が発生した場合に、残された配偶者が無償で住み慣れた家に無償で居住できる権利として認められたのが、配偶者居住権となります。
配偶者居住権は終身の間居住できますが、存続期間を定めることも可能とされています(第三者対抗要件として登記が必要)。
なお、相続の開始により、配偶者が居住建物を一定期間、無償で使用する法的根拠を確保するために配偶者短期居住権という制度も設けられています。配偶者短期居住権では遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間に限って居住することが可能です(登記はできません)。
配偶者居住権の要件
- 残された配偶者が、お亡くなりになられた方の法律上の配偶者であること
- 配偶者が相続開始時に、お亡くなりになられた方が所有されていた建物に居住していたこと
- 遺産分割、遺贈、死因贈与又は家庭裁判所の審判のいずれかにより、配偶者居住権を取得したこと
居住建物については、お亡くなりになられた方の単独所有又は配偶者と共有している場合にのみ、配偶者居住権が成立します。そのため、お亡くなりになられた方と配偶者以外の方(例えば、長男)が共有している場合には配偶者居住権が成立しません。
また、円滑な遺産分割が行われないことが予想される場合、遺言書を作成することを検討したほうがよい場合もありますので、合わせて注意が必要です。
配偶者居住権の評価
配偶者居住権の価額
居住建物の相続税評価額(注1)- 居住建物の相続税評価額(注1)×(耐用年数-経過年数-存続年数)÷(耐用年数-経過年数)× 存続年数に応じた法定利率による複利現価率
(注1)居住建物の一部が賃貸の用に供されている場合、又は被相続人が相続開始の直前において居住建物をその配偶者と共有していた場合には、次の算式により計算した金額となります。
居住建物が賃貸の用に供されておらず、かつ共用でないものとした場合の相続税評価額 × 賃貸の用に供されている部分以外の部分の床面積 ÷ 居住建物の床面積 × 被相続人が有していた持分割合
敷地利用権の価額
居住建物の敷地の用に供される土地の相続税評価額(注2)- 居住建物の敷地の用に供される土地の相続税評価額(注2)× 存続年数に応じた法定利率による複利現価率
(注2)居住建物の一部が賃貸の用に供されている場合、又は被相続人が相続開始の直前において居住建物の敷地を他の者と共有し、もしくは居住建物をその配偶者と共有していた場合には、次の算式により計算した金額となります。
居住建物が賃貸の用に供されておらず、かつ土地が共有でないものとした場合の相続税評価額 × 居住建物の賃貸の用に供されている部分以外の部分の床面積 ÷ 居住建物の床面積 × 被相続人が有していた居住建物の敷地の持分割合と当該建物の持分割合のうちいずれか低い割合
(ご参考)
以下は、居住建物とその敷地の用に供される土地を取得された方の評価になります。
居住建物の価額
居住建物の相続税評価額 - 配偶者居住権の価額
居住建物の敷地の用に供される土地の価額
居住建物の敷地の用に供される土地の相続税評価額 - 敷地利用権の価額
配偶者居住権の主なメリット、デメリット
主なメリット
- 遺産分割の際に、配偶者が居住建物の所有権を取得するよりも低い価額で居住権を確保することが可能です。また、その結果として、配偶者は遺産分割の際に現預金等の他の財産も取得できることになり、老後の生活資金を確保することが可能となります。
- 配偶者の死亡、存続期間の満了等によって配偶者居住権は消滅するため、二次相続時の相続財産とはなりません。
主なデメリット
- 配偶者居住権は所有権とは異なり、譲渡することができません。そのため、所有権であれば、将来的にご自宅を売却して老人ホーム等へ移る際の資金に充てることができますが、配偶者居住権ではそれができません。
→建物所有者の承諾を得れば、第三者へ賃貸することが可能ですので、この賃料収入をもって老人ホーム等へ移るための資金を確保する選択肢もあります。なお、居住建物の増改築についても、建物所有者の承諾を得る必要があります。 - 配偶者が用法遵守義務や善管注意義務等に違反した場合や、上記建物所有者の承諾が必要な場面で承諾を得なかったような場合等には、建物所有者は相当の期間を定めて是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは配偶者居住権の消滅請求を行うことができるとされています。
→上記消滅請求のほか、配偶者と建物所有者が合意、又は配偶者の放棄により配偶者居住権が消滅する場合において、建物所有者がその対価を支払わなかった(著しく低い対価を支払った場合を含む)ときは贈与税が課されることとされていますので注意が必要です(相基通9-13の2)。